学問のすすめ
鳥獣魚虫が、自分で食物を得られぬだろうか。
蟻などは、食物を得るだけでなく、冬に備えて穴を掘り巣を作り、食糧を蓄えている。
ところが世の中には、この蟻と同様の行為をしただけで、すっかり満足している人間がいる。
顔色や容貌を、いきいきと明るく見せることは、人間としての基本的なモラルである。
顔色容貌の活発愉快なるは人の徳義の一ヵ条にして、人間交際においてもっとも大切なるものなり。
酒と女におぼれるような者は、人間のクズであろう。
そんな者と比べてまだマシだと喜んでいるような者は
自分の愚かさをただ世間に公表しているだけだ。
人として酒色に溺るる者はこれを非常の怪物と言うべきのみ。
この怪物に比較して満足する者は、これを譬えば双眼を具するをもって得意となし、盲人に向かいて誇るがごとし。
いたずらに愚を表するに足るのみ。
この怪物に比較して満足する者は、これを譬えば双眼を具するをもって得意となし、盲人に向かいて誇るがごとし。
いたずらに愚を表するに足るのみ。
道義を守る国とわが国は外交を持ち、道義なき国とは勇気を持って交渉を打ち破るのみである。
道理あるものはこれに交わり、道理なきものはこれを打ち払わんのみ。
進歩しないものはすたれ、退かず努力するものは必ず前進する
おおよそ世間の事物、進まざる者は必ず退き、退かざる者は必ず進む。進まず退かずして潴滞する者はあるべからざるの理なり。
読書は学問の手段である。学問は実践への方法である。
実地に臨み経験を積んでこそ、勇気と力が生まれるはずである。
読書は学問の術なり、学問は事をなすの術なり。実地に接して事に慣るるにあらざればけっして勇力を生ずべからず。
語彙の少ない人の話は、聞いていて実に気の毒になる。
また今日不弁なる人の言を聞くに、その言葉の数はなはだ少なくしていかにも不自由なるがごとし。
言論は自由でなければならぬし、人の行動を妨げてはならない
人の言路は開かざるべからず、人の業作は妨ぐべからず。
西洋文明を学び習うのはいい。
しかし無批判に信用するぐらいなら、いっそ信じないほうが、まだマシである。
西洋の文明もとより慕うべし。これを慕いこれに倣わんとして日もまた足らずといえども、軽々これを信ずるは信ぜざるの優に若かず。
自由のない社会であれば、人民に気力がないほうが、政府としては便利であろう。
昔鎖国の世に旧幕府のごとき窮屈なる政を行なう時代なれば、人民に気力なきもその政事に差しつかえざるのみならずかえって便利なるゆえ、ことさらにこれを無智に陥れ、無理に柔順ならしむるをもって役人の得意となせしことなれども、今、外国と交わるの日に至りてはこれがため大なる弊害あり。
自由にものを言い、自由に働き、富貴も貧賎も
それは本人自身が選び取った結果であるようにすべきだ。
その自由を妨げてはならないのである。
自由に言わしめ、自由に働かしめ、富貴も貧賤もただ本人のみずから取るにまかして、他よりこれを妨ぐべからざるなり。
自由に言わしめ、自由に働かしめ、富貴も貧賤もただ本人のみずから取るにまかして、他よりこれを妨ぐべからざるなり。
自分の内部に思いをこらし、学識が深いこと、底知れぬ淵のようであるとともに
外に、人と接して知的活動が自由自在なこと、空翔ける鳥のようであってこそ
はじめて、真の学者と言えるだろう。
私に沈深なるは淵のごとく、人に接して活発なるは飛鳥のごとく、その密なるや内なきがごとく、その豪大なるや外なきがごとくして、はじめて真の学者と称すべきなり。
考えてもみたまえ。古今東西、暗殺で世界情勢がよくなり、世の中が幸福になった事例など、いまだかつて一度もなかったではないか。
試みに見よ、天下古今の実験に、暗殺をもってよく事をなし世間の幸福を増したるものは、いまだかつてこれあらざるなり。
私刑の最たるもので、極度に政治を歪めるものは、暗殺である。
私裁のもっともはなはだしくして、政を害するのもっとも大なるものは暗殺なり。
祖先全体を一人の人間とみなせば、文明はその人がわれわれ人間すべてに譲ってくれた遺産なのだ。
世界中の古人を一体にみなし、この一体の古人より今の世界中の人なるわが輩へ譲り渡したる遺物なれば、その洪大なること地面、家財の類にあらず。
知識人として国家を憂える人間に、無芸な人物がいるわけはない。
身についた能力で世を渡ることなどわけはない。
すでにみずから学者と唱えて天下の事を患うる者、豈無芸の人物あらんや。芸をもって口を糊するは難きにあらず。
知識・見聞を広げるためには、他人の意見を聞き、自分の考えを深め、書物も読まなければならない。
知識見聞を開くためには、あるいは人の言を聞き、あるいはみずから工夫を運らし、あるいは書物をも読まざるべからず。
相手に劣等感を持ってしまったら、たとえ自分に多少の知識があっても
それを外に向かって広めることができようか。
他に対してすでに恐怖の心をいだくときは、たとい、我にいささか得るところあるもこれを外に施すに由なし。
疑いようのないことなら議論は起こらないだろう
この諸説はわが独立の保つべきと否とについての疑問なり。事に疑いあらざれば問いのよって起こるべき理なし。今試みに英国に行き、「ブリテンの独立保つべきや否や」と言いてこれを問わば、人みな笑いて答うる者なかるべし。
理論を説けば、それは自然に人民の心に沁みとおる。
今年だめでも来年は理解されよう。
その正論あるいは用いられざることあるも、理のあるところはこの論によりてすでに明らかなれば、天然の人心これに服せざることなし。ゆえに今年に行なわれざればまた明年を期すべし。
理想のみ高尚遠大で、行動力に乏しい者は、常に不平を抱いていなければならぬ。
心事高大にして働きに乏しき者は、常に不平をいだかざるを得ず。
現在、わが国民において、最も憂うべき問題は、人びとの見識が低いということである。
方今わが国民においてもっとも憂うべきはその見識の賤しきことなり。
独立の精神なき者は、つねに他人をあてにする。
他人をあてにする者は、必ず他人の態度を気にする。
他人を気にする者は、必ず他人にお世辞を使う。
独立の気力なき者は必ず人に依頼す、人に依頼する者は必ず人を恐る、人を恐るる者は必ず人に諛うものなり。常に人を恐れ人に諛う者はしだいにこれに慣れ、その面の皮、鉄のごとくなりて、恥ずべきを恥じず、論ずべきを論ぜず、人をさえ見ればただ腰を屈するのみ。
法を設け人民を保護するのは、政府の商売であり当然の義務である。
それは御恩ではない。
法を設けて人民を保護するはもと政府の商売柄にて当然の職分なり。これを御恩と言うべからず。
決して自己満足しないことに尽きる
みずから満足することなきの一事にあり。
しかるに世の中にはこの蟻の所業をもってみずから満足する人あり。