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無目的的:記述どおり
少女に偏愛される「もの」や「こと」など特殊なジャンルたちは、
少年や大人たち一般のそれらに比して、よりよく社会文化の深層を照らし出し、
秩序社会の裏側に住みつく度し難いものたちを指し示すものである。
なぜなら、社会的存在としての少女たちは体制的秩序に十分に組み込まれてはいず、
いまだ秩序社会のなかに責任ある位置を与えられてはいない。
それゆえに、彼女たちは、
宙吊りの囲い地たる「少女時代」に無責任・無目的的に滞在することを許され、
建前としての制度的言説で自信を装う必要がないからである。
AERA Mook 24『コミック学のみかた。』(朝日新聞社,1997)P6
本田和子
1
1931年生まれ。聖学院大学人文学部教授。
第1章◆入学式 ゴルフ大脳生理学
だまし絵としてゴルフコースほど面白いものはない。
庭園としてみればコースほど大きくて美しいものはない。
ここで遊ぶゴルフほど不思議なゲームはない。
全身全霊を集中し満場を沸かせるタイガー・ウッズのチップイン・イーグルも、
菫を愛でて浩然の気を養う3桁スコアの散歩も、なぜ同じゴルフというのでしょう。
なぜ1.5打という数え方はしないのでしょう。豪打あり微妙なタッチあり。
歴史にその名を刻まれた正直者あり破滅の嘘つきあり。
鈴木康之/杉山通敬/藤岡三樹臣『痛快!ゴルフ学』(集英インターナショナル,2002)P9
鈴木康之
4
1937年生まれ。ゴルフマナー研究家。
「己が努力、行動を起こさずに対象となる人間の弱みを口であげつらって、
自分のレベルまで下げる行為、これを嫉妬というんです。
一緒になって同意してくれる仲間がいればさらに自分は安定する。
本来なら相手に学び、抜くための行動、生活を送ればそれで解決するんだ。
しかし人間はなかなかそれができない。
嫉妬している方が楽だからな。
芸人なんぞそういう輩の固まりみたいなもんだ。
だがそんなことで状況は何も変わらない。
よく覚えとけ。
現実は正解なんだ。
時代が悪いの、世の中がおかしいといったところで仕方ない。
現実は事実だ。
そして現状を理解、分析してみろ。
そこにはきっと、何故そうなったかという原因があるんだ。
現状を認識して把握したら処理すりゃいいんだ。
その行動を起こせない奴を俺の基準で馬鹿という」
立川談春『赤めだか』(2008,扶桑社)P16
(richhills.posterous.com)
(richhills.posterous.com)
第2章◆誰のために憲法はある
リヴァイアサン
リヴァイアサン
口からは火炎が噴き出し 火の粉が飛び散る。
煮えたぎる鍋の勢いで 鼻からは煙が吹き出る。
喉は燃える炭火 口からは炎が吹き出る。
首には猛威が宿り 顔には威嚇がみなぎっている。
筋肉は幾重にも重なり合い しっかり彼を包んでびくともしない。
心臓は石のように硬く 石臼のように硬い。
彼が立ち上がれば神々もおののき 取り乱して、逃げ惑う。
剣も槍も、矢も投げ槍も 彼を突き刺すことはできない。
旧約聖書 ヨブ記(新共同訳)
小室直樹『痛快!憲法学』(amazon.co.jp) (集英社インターナショナル,2001)30p
小室直樹『痛快!憲法学』(amazon.co.jp) (集英社インターナショナル,2001)30p
「風邪はね。」うららは少しまつげをふせて淡々と言った。
今がいちばんつらいんだよ。死ぬよりつらいかもね。
でも、これ以上のつらさは多分ないんだよ。その人の限界は変らないからよ。
またくりかえし風邪ひいて、
今と同じことがおそってくることはあるかもしんないけど、
本人さえしっかりしてれば生涯ね、ない。そういう、しくみだから。
そう思うと、
こういうのがまたあるのかっていやんなっちゃうっていう見方もあるけど、
こんなもんかっていうのもあってつらくなくなんない?
よしもとばなな『ムーンライト・シャドウ』(朝日出版社,2003)87p
最後の氷河期に覆われる以前、ここは森だったのだろう。一万年以上も前のことだ。
その森はやがて氷河に埋まり、再び氷河が退いてゆく中で姿を現わしたのだ。
その幹に手を触れると、
はるか昔、洪積世の氷河の足音が聞こえてくるような気がした。
思いが過去の時間に延びてゆくのは、この土地に生きてきた人々の歴史だけでなく、
無機質な地球の営みさえも同じだった。
やはり、綿々とつながり、今、自分がこの土地に立っている、
そしてその今さえも、ゆっくりと動き続けている。
星野道夫 訳/ロバート・A・ミンツァー『未来への地図 新しい一歩を踏み出すあなたに』(朝日出版社,2005)39p
星野道夫
5
1952年9月27日 - 1996年8月8日 写真家。千葉県市川市出身。
星野さんがその大きな人生を切り拓くことができた決定的な条件は、四つあると思う。
一つは、「できたらいいな」「行けたらいいな」と願ったり憧れたりする対象が、
「北極圏の自然」「アラスカ」という具体的なものであり、
その童心のような夢を高校生になっても大学生になっても抱き続けたことである。
二つめの条件は、感性や想像力が豊かだったことである。
三つめの条件は、勇気を持って行動を起こす人だったということである。
四つめの条件は、
行動中であっても撮影中であっても、考える習慣を持っていたということである。
※いのちや人生や、大自然について深く考えるという心の習慣が、
二つめにあげた感性の豊かさと結びついて、
写真を撮るときの瞬間的な判断と動作に投影されるのだと、私は考えている。
星野道夫 訳/ロバート・A・ミンツァー『未来への地図 新しい一歩を踏み出すあなたに』(朝日出版社,2005)33p,37p
柳田邦夫
4
1936年6月9日生まれ。ノンフィクション作家、評論家。
「東京での再会「異邦人対談」番外篇」
ぼくの場合は、
ほら、顔を上げて空の太陽を見なさいというものの見方とは逆なんです。
直接、光源を見ても、太陽の激しい光はまぶしくて見えない。
そういうときにはうなだれて、肩を落として足もとを見る道もある、と。
自分の足もとに落ちているくっきりした影の濃さと暗さこそが、
自分を背後から照らしている光の存在を気づかせてくれるじゃないか。
ああ、たしかに光は存在し、自分を背後から照らしてくれているんだな、と。
塩野七生 五木寛之『おとな二人の午後』(角川書店,2003)377p
「セクシーな文体と時代の風の微妙な関係」
風に吹かれて(amazon.co.jp)
風に吹かれて(amazon.co.jp)
ぼくたちはやはり生かされてる存在だと思うんです。
自分でもぼやっとして文章書いてて、手に書かされてるって思うときだってあるもの。
頭だけでも、ハートだけでもなくてね、手が書くっていう瞬間も実際、あるんですよ。
ヨットに帆を張って、風を待ってるようなものです。
なにか大きなものに励まされて、初めて書いていけるみたいな。
塩野七生 五木寛之『おとな二人の午後』(角川書店,2003)314p