三木清 62

1897年1月5日 - 1945年9月26日
(西田左派を含めた上での)京都学派の哲学者。弟に中国文学者の三木克己がいる。...-ウィキペディア

自主的であるといふことは排他的であるといふことでなく、他のものと廣く交渉しながら自分を失はず、進取的に他の長所を取り入れて自分を大きく伸ばしてゆくといふ態度のうちに眞の自主性が認められるのである。他を排斥して自分にのみ籠るといふのは、自分に対する信頼がないといふことである。

出典:「自主的思考の反省」(三木清全集第14巻)

人類的意義を有する文化は個人の良心的な活動を媒介として民族のうちに生れる。個人の自発的な活動を認めることは、民族的文化が世界的意義を担ふために必要である。

出典:「全体と個人」(三木清全集第14巻)

天才は規則に束縛されるのでなく、彼が規則の模範である。天才が規則なしに物を作るといふことは、彼の作つたものが規則に合っていないといふことではなく、むしろ反対である。「作られるあらゆるものは規則に合ふものでなければならないから、天才は規則に合つていなければならない。」それだからひとは彼の作品から規則を作り得るのであり、かくして天才は模範となるのである。天才は規則の意識なしにしかも規則に合ふものを作り出すのである。

出典:『天才論』(三木清全集第14巻「教養と文化(二)」)

指導者は他の人々の創造的才能を抑圧するのでなく、彼等のうちに存在する天才に点火してこれを生産的にするものでなければならぬ。

出典:『天才論』(三木清全集第14巻「教養と文化(二)」)

最良の本は我々に絶えず問を掛けてくる本である。かくして問答が始まる。問は問に分れ、答は新たな問を生み、問答は尽きることなく発展してゆく。

出典:『読書論』(三木清全集第14巻「教養と文化(二)」)

一冊の本を讀んで、他の本を讀まうといふ欲望を起こさせないやうな本は、善い本ではない。かくしておのづから讀書に系統が出來てくる。讀書が系統化し始めるに至つて、ひとは眞に讀書し始めたといふことができる。そのとき、あの一冊の本を開いたことは自分の心を開いたことであつたのである。今や讀書の歴史は自分の生長の歴史になる。そのやうな書物においては、或ひは一年を隔てて、或ひは十年を隔てて、幾度となく、種々様々の機會に、我々はそれに還つてくるであらう。そして我々はその邂逅が偶然でなつたことを信じるに至るのである。

出典:『読書論』(三木清全集第14巻「教養と文化(二)」)
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ひとが普通に讀むやうな本だけを讀んでいるのでは新しい考へを得ることは困難であらう。我々は讀書において發見的でなければならない。讀書の樂しさは發見的であることによつて高められるのである。發見は一種の邂逅である。ただ求める者のみが發見し得る。他から教へられた書物にのみ頼ることなく自分自身で、自分に適し、自分に役に立つ本を發見することに努めなければならない。

出典:『読書論』(三木清全集第14巻「教養と文化(二)」)

真の幸福は、彼はこれを捨て去らないし、捨て去ることもできない。彼の幸福は彼の生命と同じように彼自身と一つのものである。この幸福をもって彼はあらゆる困難と闘うのである。幸福を武器として闘う者のみが斃(たお)れてもなお幸福である。

出典:人生論ノート「幸福について」

娯楽は生活の中にあって生活のスタイルを作るものである。娯楽は単に消費的、享受的なものでなく、生産的、創造的なものでなければならぬ。単に見ることによって楽しむのでなく、作ることによって楽しむことが大切である。

出典:人生論ノート 「娯楽について」

行動の哲学は歴史の理性の哲学でなければならぬ。歴史の理性はもとより抽象的なものでなく、一定の時期において、一定の民族を通じて現れ、一定の民族のうちに具体化されるものである。そして一つの民族は民族である故をもって偉大であるのではなく、その世界史的使命に従って偉大であるのである。

出典:「知識階級に輿ふ」(三木清全集第15巻)

世論を抑圧することは危険である。なぜなら世論の形成発達が自由でないということは大衆から次第に知性を奪い取り、かくして大衆は次第に衝動的になり、大衆が衝動的になるということは極めて危険なことでなければならぬ。世論の発達は大衆の本能と感情とを知性化することである。公にされたものは如何なる隠されたものよりも健全である。

出典:輿論の本質とその實力(三木清全集第15巻)
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偽善者とそうでない者との区別は、阿諛(あゆ)的であるかどうかにあるということができるであろう。ひとに阿(おもね)ることは間違ったことを言うよりも遥かに悪い。
後者は他人を腐敗させはしないが、前者は他人を腐敗させ、その心をかどわかして真理の認識に対して無能力にするのである。

出典:「偽善について(人生論ノート)」