天才は規則に束縛されるのでなく、彼が規則の模範である。天才が規則なしに物を作るといふことは、彼の作つたものが規則に合っていないといふことではなく、むしろ反対である。「作られるあらゆるものは規則に合ふものでなければならないから、天才は規則に合つていなければならない。」それだからひとは彼の作品から規則を作り得るのであり、かくして天才は模範となるのである。天才は規則の意識なしにしかも規則に合ふものを作り出すのである。
出典:『天才論』(三木清全集第14巻「教養と文化(二)」)
三木清