芥川龍之介
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あせつては不可せん。‥‥‥世の中は根気の前に頭を下げる事を死つてゐますが、
火花の前には一瞬の記憶しか与へて呉れません。
大正五=一九一六=年八月二十四日、芥川龍之介・久米正雄宛書簡より。
奴隷廃止ということはただ奴隷たる自意識を廃止するということである。
われわれの社会は奴隷なしには一日も安全を保し難いらしい。
現にあのプラトオンの共和国さえ、
奴隷の存在を予想しているのは必ずしも偶然ではないのである。
『侏儒の言葉』(岩波文庫版33頁)
危険思想とは常識を実行に移そうとする思想である。
『侏儒の言葉』(岩波文庫版32頁)
暴君を暴君と呼ぶことは危険だったのに違いない。
が、今日は暴君以外に奴隷を奴隷と呼ぶこともやはりはなはだ危険である。
『侏儒の言葉』岩波文庫版34頁
「勤倹尚武」という成語ぐらい、無意味を極めているものはない。
尚武は国際的奢侈である。現に列強は軍備のために大金を費やしているではないか?
『侏儒の言葉』(岩波文庫版68頁)
正義は武器に似たものである。
武器は金を出しさえすれば、敵にも味方にも買われるのであろう。
正義も理屈をつけさえすれば、敵にも味方にも買われるものである。
古来「正義の敵」という名は砲弾のように投げかわされた。
しかし修辞につりこまれなければ、どちらがほんとうの「正義の敵」だか、
めったに判然としない。
『侏儒の言葉』(岩波文庫版15~16頁)
われわれを支配する道徳は資本主義に毒された封建時代の道徳である。
われわれはほとんど損害のほかに、なんの恩恵にも浴していない。
『侏儒の言葉』(岩波文庫版9~10頁)
道徳は常に古着である。
『侏儒の言葉』(岩波文庫版10頁)