正義は武器に似たものである。
武器は金を出しさえすれば、敵にも味方にも買われるのであろう。
正義も理屈をつけさえすれば、敵にも味方にも買われるものである。
古来「正義の敵」という名は砲弾のように投げかわされた。
しかし修辞につりこまれなければ、どちらがほんとうの「正義の敵」だか、
めったに判然としない。
『侏儒の言葉』(岩波文庫版15~16頁)
芥川龍之介