わが国の人民は数千年に渡り専制政治に苦しめられてきた。
心に思うことを口に出せない、嘘をついてでも身の安全を考え
だましてでも罪を逃れ、嘘やごまかしが生活の手段となり
不誠実が日常習慣となり、恥じる者、怪しむ者もなく
一身のいさぎよさなどすべて消え、まして国を思うことなど、まるでなかった。
わが全国の人民数千百年専制の政治に窘しめられ、人々その心に思うところを発露すること能わず、欺きて安全を偸み、詐りて罪を遁れ、欺詐術策は人生必需の具となり、不誠不実は日常の習慣となり、恥ずる者もなく怪しむ者もなく、一身の廉恥すでに地を払いて尽きたり、豈国を思うに遑あらんや。
福澤諭吉