ヘルマン・ヘッセ 172

1877年7月2日 - 1962年8月9日
ドイツ生まれのスイスの作家。主に詩と小説によって知られる20世紀前半のドイツ文学を代表する文学者である。 風景や蝶々などの水彩画もよくしたため、自身の絵を添えた詩文集も刊行している。そして、1946年、彼は...-ウィキペディア

人間はおののく魂で、他のどんなものにもまさって、
悩む力を持つとともに、至高のものを果す力を持つ。

われらは喜んであらゆる形に流れ込む。
昼に、夜に、洞穴に、寺院に。

われらは常に途上にあり、常に客である。

そしてわれらの途上においては、
休息となることはない。

高い空に浮ぶ
白い雲のように
あなたは、白く、美しく、遥かです、

夜々、はてしない夜々、
古い恋の喜びの数かずが
激しく、熱っぽくあつく
私のうつつな夢をかけぬけた夜々。

広告

疑いへ、哲学へと促され、
私たちは到達する、
皮肉の第一段階へ。

そして恋のなぞを知った、
燃えさかる歓楽と戦慄を同様に豊かに味わって。

間もなくあなたはそれをお聞きになるでしょう。
お聞きにはなっても、おわかりにならないでしょう。

そしてだれも現わさなかったものを現わす
だが、いくらひいても、私はもう楽しくなれない。

私は疲れ、ほこりにまみれて歩く、
並木路の影の中を。

広告

ただ私はついぞ、自分のふるさと、
自分の国というものを感じたことがない。

私は夜ごとに荒れる海だ。
古い罪に新しい罪を積みかさねて、
きびしいいけにえをささげる嘆きの海だ。

私の後ろには、青春がためらいがちに立ちどまり、
美しい頭をかしげ、
これから先はもう私と一しょに行こうとしない。

もう一歩も歩けない。
母なる死よ、手をかして、
あなたの無限な目をのぞかして下さい!

夜よ、開け、そして私を死の国に導け!
他に願いはない。

言いようもなくやさしいあなたというものが
千もの糸で私を取巻いているのですから。

雨にたたかれながら、安らいを求めている
しろじろとした景色を。

私たちはまだ生きている、敵にのみ込まれはしなかったと、

幸福を追いかけている間は、
おまえは幸福であり得るだけに成熟していない、

渇えながら私は熱い道を歩く。
私の青春の国は閉ざされている。

愛と、孤独、
愛と、満たされぬあこがれ、
それが芸術の母だ。

大それたことをもはや望まぬこと、
それが今は私の知恵、私の心の宝だ。

畑もすきもわれらを呼ばず、
われらのためにパンは生えない。

五月の森がどんなに柔らかい緑だったか、
今日まだだれが覚えていよう?