エーリヒ・マリア・レマルク 5

1898年6月22日 - 1970年9月25日ドイツの小説家。『西部戦線異状なし』を始めとして、二つの世界大戦と全体主義に翻弄される民衆を一貫して描いた。本名はエーリヒ・パウル・レマルク(Erich Paul Remark)で、家名の「Remark」をフランス語風の綴りにした「Remarque」に、「Paul」の部分を「Maria…-ウィキペディア

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ここまで書いてきた志願兵パウル・ボイメル君も、ついに一九一八年の十月に戦死した。その日は全戦線にわたって、きわめて穏やかで静かで、司令部報告は「西部戦線異状なし、報告すべき件なし」という文句に尽きているくらいであった。

(『西部戦線異状なし』秦豊吉訳・新潮文庫版332頁)

もし貴様が犬を馬鈴薯ばかり食うように馴らしておいて、そこであとで肉を一片やってみろ。やっぱり犬はその肉に喰いつくぞ、これは犬というものの性質にあるんだ。もし貴様が人間に権力というものをやってみろ。やっぱり犬と同じこった。人間はそいつに喰いつくぞ。それだってみんな自然にそうなんだ。人間と言うやつは、初めっから畜生なんだ。それに豚の脂を塗ったパンみたいに、少しばかり上品なところを塗りつけたものだ。

(『西部戦線異状なし』秦豊吉訳・新潮文庫版54頁)

僕らに不思議に思われたことは、こんな粉砕された肉体の上に、まだ人間並みの顔がくっついていて、しかもその顔には、毎日の生命が生きつづけてゆくことである。
しかもこれは僅かただ一つの病院であり、ただ一ヵ所に過ぎないのである…。
今の世の中にこれほどのことがありうるものとすれば、一切の紙に書かれたこと、行われたこと、考えられたことはすべて無意味だ。
この世の中にこれだけの血の流れがほとばしり、幾十万の人間のために苦悩の牢獄が存在することを、過去千年の文化といえども遂にこれを防ぐことができなかったとすれば、この世のすべては嘘であり、無価値であると言わなければならない。
野戦病院の示すものこそ、まさに戦争そのものにほかならない。

『西部戦線異状なし』秦豊吉訳・新潮文庫版301頁 
Bombardment, barrage, curtain-fire, mines, gas, tanks, machine-guns, hand-grenades - words, words, but they hold the horror of the world.

「砲撃」、「弾幕」、「地雷」、「ガス」、「戦車」、「機関銃」、「手榴弾」。言葉だ、言葉に過ぎないが、それらの「言葉」はまさに世界の恐怖を抱えているのだ。

(『西部戦線異状なし』から)戦場において、無味乾燥な「言葉」は「恐怖と憎悪の表現」と化して兵士たちを襲う。
A hospital alone shows what war is.

病院だけが、戦争の何たるかを証明する。

『西部戦線異状なし』