「…しかしそれよりまえに文明の皮を剥かなくっちゃ、いけない」
「皮が厚いからなかなか骨が折れるだろう」と碌さんは水瓜のような事を言う。
「折れてもなんでも剥くのさ。奇麗な顔をして、下卑たことばかりやってる。それも金のない奴だと、自分だけで済むのだが、身分がいいと困る。下卑た根性を社会全体に蔓延させるからね。たいへんな害毒だ。しかも身分がよかったり、金があったりするものに、よくこういう性根の悪い奴があるものだ」
『草枕・二百十日』(角川文庫版182頁)
夏目漱石