僕らに不思議に思われたことは、こんな粉砕された肉体の上に、まだ人間並みの顔がくっついていて、しかもその顔には、毎日の生命が生きつづけてゆくことである。
しかもこれは僅かただ一つの病院であり、ただ一ヵ所に過ぎないのである…。
今の世の中にこれほどのことがありうるものとすれば、一切の紙に書かれたこと、行われたこと、考えられたことはすべて無意味だ。
この世の中にこれだけの血の流れがほとばしり、幾十万の人間のために苦悩の牢獄が存在することを、過去千年の文化といえども遂にこれを防ぐことができなかったとすれば、この世のすべては嘘であり、無価値であると言わなければならない。
野戦病院の示すものこそ、まさに戦争そのものにほかならない。
戦争 (1610) 西部戦線異状なし (3) |