「なぜ、はじめからこうしなかったのでしょうね。とっても私は幸福よ」
「女には、幸福も不幸もないものです」
「そうなの?そう言われると、そんな気もしてくるけど、それじゃ、男の人はどうなの?」
「男には、不幸だけがあるんです。いつも恐怖と、戦ってばかりいるのです」
「わからないわ、私には。でも、いつまでも私、こんな生活を続けて行きとうございますわ。椿屋のおじさんも、おばさんも、とてもいいお方ですもの」
ヴィヨンの妻
太宰治