物が眞に表現的なものとして我々に迫るのは孤独においてである。そして我々が孤独を超えることができるのはその呼び掛けに應へる自己の表現活動においてのほかない。アウグスティヌスは、植物は人間から見られることを求めてをり、見られることがそれにとつて救済であるといつたが、表現することは物を救ふことであり、物を救ふことによつて自己を救ふことである。かやうにして、孤独は最も深い愛に根差している。そこに孤独の実在性がある。
出典:「孤独について」(『人生論ノート』に収録)
三木清